2018年5月5日、一人の直木賞受賞作家が享年92歳で亡くなりました。この下関の地で。
正直、名前も作品も知りませんでしたが、田中絹代ぶんか館で戴いた「名誉館長のつぶや記」を読んだ時、人の善さも悪さも包み込むような温かみを感じました。
文豪・古川薫氏。その追悼展が、7月3日から田中絹代ぶんか館で開催されています。学芸員の田中さんに話を伺いました。
先着100名様のみ渡される冊子。残り僅かです。
「古川薫」氏について
大正14(1925)年6月5日、下関市大坪町で誕生。三国志を読み文学少年にだったが、当時は第二次世界大戦中。男子たるもの、文学好きだなんて言えるような社会ではなかったそうです。
そんな想いを胸に秘め、飛行機に憧れ「ゼロ戦を作る!」という夢を掲げ、宇部(元長門)工業高校機械化に進学。卒業後、羽田の航空機会社で「赤とんぼ」と呼ばれる航空士の練習機の整備士になりました。(後に「赤とんぼ」は特攻用に使用。)
そんな中、友人の手紙を代筆していた古川氏の文章が上司の目に留り、戦闘で亡くなった方の遺族宛の手紙を書くことになったそうです。温かい視点の古川氏の作風は、こんな戦争体験からも培われたものなのかもしれません。
古川先生が整備した「赤とんぼ」の模型。
夕焼け空に赤とんぼ。古川氏の文章を再現したような展示空間。
「25年が一筋につながった直木賞」
「無能にしてこの一筋につながる」。松尾芭蕉「幻住庵ノ賦」の一説で、古川氏の座右の銘。三十五で一度執った筆を置こうと思った際に、恩師から送られた言葉だそう。その後、初の直木賞候補含め9回選考されましたが落選。当時、東京在住の作家が中心の選考、地方在住の作家のノミネートにメディアは注目。意気消沈の中、落選会見をするのは辛かったと語ったそうです。
そして!10回目のノミネート。オペラ歌手藤原義江を題材にした「漂泊者のアリア」で、見事第104回直木賞を受賞。初ノミネートから25年の歳月が経っていました。
古川作品「走狗」が初めて直木賞候補に選考されたお知らせの書面。とっても珍しい展示が満載。
人柄が伝わる展示
今回の展示には、直木賞候補の各作品と通知、直木賞受賞に関するもの、直筆の色紙など貴重なものばかり。そして何よりも心を打たれたのは、奥様であり歌人の森重香代子さん宛の手紙の数々。
学芸員の吉田さんの丁寧な説明と、人をとても大事にした故・名誉館長の人柄が十二分に伝わる展示に充足感。思わず古川氏の作品を買いに本屋へ走った、「物書きの端くれ」山乃撫子でした。お会いしたかったです、古川先生。合掌。
タイトル追悼 古川薫ー思念の光芒をインクに溶かしてー
日付2018年7月3日(火)~10月8日(月)
時間9:30〜17:00(入館は16:30まで)
場所田中絹代ぶんか館
住所下関市田中町5-7
電話番号083-250-7666
営業時間9:30〜17:00(入館は16:30まで)
定休日月曜日(祝日の場合は翌日)
駐車場なし
ホームページ田中絹代ぶんか館